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ゾロと連れ立って前方甲板へやって来た
クオンは、
クオンがやって来るや否や素早く足元から駆け上がり右肩へ落ち着いたハリーの顎を撫でた。気持ちよさそうに目を細めて小さく鳴いたハリーが
クオンの白手袋に覆われた指に喉をすりつける。
被り物の下でやわらかく目を細め、遠目に見える島へ視線を移した。サル男の持っていた“
永久指針”に従って辿り着いた島─── ジャヤはアラバスタ王国の港とはまた違った雰囲気で栄えているのがよく判る。背の高い建物や木々が点在し、春島という気候のせいか解放的な雰囲気はリゾートとも言えるのかもしれない。
しかし同時にひと目見て異質なのは、港にずらりと並んで停泊する多くの海賊船。メインマストではためく海賊旗をそれぞれ一瞥した
クオンは頭の中にある賞金首のリストをさらい、いくつか覚えはあるが特別危険視する海賊団はなしと判断して視線を町に戻した。
† ジャヤ 1 †
ウソップが並ぶ船が海賊船っぽく見えるのは気のせいかと現実から目を背けて首を傾げ、ナミが海賊旗から目を逸らして海賊船が港に堂々と並ぶわけないじゃないとウソップに軽くツッコミを入れ、それに「だ、だよなー」と息をついたウソップと頷くナミと2人の足元にいるチョッパーに縋るような眼差しを向けられた
クオンは、被り物の下でにっこりと笑った。
「ご安心ください、3人共。ほとんどが1千万ベリーを超える賞金首を有する海賊団ですが、そこまで危険視するほどのものではありません」
「何も安心できねぇよ!!?」
「詳細をお教えいたしましょうか?」
「ア、ア~~海賊の話を聞いてはいけない病が~~~」
容赦なく親切に現実を教えようとする
クオンに目に見えてウソップがうろたえ、冷や汗を流しながら耳を塞いで目を逸らす。そのとき、町の方から「殺しだぁ!!!」と叫ぶ男の声が轟いて、その物騒さにナミとウソップとチョッパーの3人が「何なんだようこの町はぁ~~~~~……」としくしく泣く様子を眺めた
クオンは、ここが夢を見ない無法者達が集まる政府介せぬ無法地帯であり、海賊達の落としていく金で成り立つ、喧嘩や殺しが日常の物騒極まる町であることを今だけは黙っておくことにした。
海賊達が集まる町は当然トラブルが日常茶飯事である。町を取り巻く喧騒に時折銃撃音や悲鳴が混じって
クオンの耳朶を打つが、ナミ達のように怯えるには到底至らない。随分と賑やかな町ですねぇとのんびりした感想しか浮かばなかった。
同じように物騒な町をものともしない恐れ知らずのルフィとゾロが真っ先に船から降りて意気揚々と、楽しそうな顔すらして町へ向かっていく。
さて、彼らが町に向かうということは当然のようにトラブル不可避だと経験から既に知っている
クオンは、それはそれでどうなるのか楽しみさすら覚えながら被り物の下で小さな笑みを浮かべた。
ルフィとゾロのことだ、大抵の輩には敗けるはずもない。その点は心配していないが、この町に寄ったのは空島についての情報を得るためだ。情報収集役に適さない2人に任せられるわけはなく。まぁ何かあってもこの海賊の町では多少の荒事は些事でありそれが普通でもあるだろうから、郷に入っては郷に従おうかと穏やかではないことを穏やかな微笑みの下で考えた
クオンもルフィとゾロに続こうとして、ふいに肩を軽く叩かれた感触に動きを止め目を瞬いた。
「……?」
器用に右肩に乗ったハリーを避けてぽんと叩いたやわらかな女の手の感触に従って右を向き、誰もいないことを認めてさらに下方へ視線を滑らせれば、いつの間に船を降りていたのか、ロビンが薄い笑みを浮かべてこちらを見ているのが視界に入った。
クオンはもうひとつ瞬き、ちらりと少しずつ遠くなるルフィとゾロの背を見て、ウソップとチョッパーと何やらぼそぼそ話していたナミが「それじゃダメなのよ!」と突然立ち上がって船を飛び出して行ったのを見るや即座に彼女の誘いに乗ることにした。
ウソップとチョッパーに気づかれないよう音もなく船を降りてロビンのもとへ歩み寄る。応じた
クオンに笑みを深めたロビンが何も言わずルフィ達とは違う方向から町へ向かい、
クオンもまた無言でそのあとに続いた。
怯えるウソップとチョッパーを船に残すのは少々心配だが、まぁ戦闘にも秀でているコックもいるから大丈夫だ。よろしく頼みましたよ、サンジ。心優しい彼に勝手に託した
クオンは、このあとロビンと共に戻ってきたことで盛大に妬み羨ましげな顔をして歯を食いしばるサンジの未来を一瞬想像し、小さくこぼした笑みを被り物の中にとかした。
この海賊達の町は、誰が見ても無法地帯のようで独自のルールが敷かれているようだと
クオンが悟ったのは早かった。
通りを歩く男達は総じてガラが悪く、明らかにカタギではないが別段驚くことではない。町のあちこちでは小規模の刃傷沙汰が起きていて、しかし周囲の人間はあまり気にした様子はなく、巻き込まれないように距離を取るかあるいは囃し立て時にどちらが勝つか賭けをしている。だが海賊達が町の人間に手を出している様子はなかった。あくまで小競り合いをしているのは海賊同士だ。
時折視界に入る着飾った女は海賊だろうか。それとは別に明らかに素人な女が海賊の男に侍っているのは彼らを相手取った商売女の類だろう。
通りに店を構えている店を眺めれば、商売は妥当な金額で行われ、海賊達も商品を無理やり奪うことはせず素直に金を払っている。ロビンを隣に
クオンも街角の酒屋で酒瓶を1本適当に買って軽く話を聞いた。
「この町は随分と賑やかですね」
「なんだ、この町は初めてか?」
「ええ、つい先程着いたばかりです。これでも海賊なのですがなにぶん知識があまりなく。この町がモックタウンと呼ばれていることくらいしか分からないのです」
低くくぐもった声は被り物のせいで抑揚が削がれ感情をあらわにしない。上部には三角形が2つ、頬部分には左右対称に3本の線が、そして黒い2つの目とωな口元だけを描いた猫を模した被り物は
クオンの顔を完全に隠して得体の知れなさを買っているが、筋骨隆々でもなければ首が痛くなるほどの長身でもない、一見武器の類も携えているようには見えない雰囲気が穏やかな痩身の人間が軽く肩をすくめてもう1本酒を追加で頼めば、良い商売相手を得て口元をほころばせた年嵩の店主がいそいそと高い酒を差し出しながら上機嫌に口を開いた。
大体はアラバスタで仕入れた知識の再確認で終わり、それでも愛嬌があるようで間の抜けた被り物を被った真っ白い執事服の男がふむふむと感心した風情で素直に聞き入れる様子に店主がさらに口を軽くする。
「兄ちゃんと姉ちゃん、この町にいる間はベラミーにだけは手を出すんじゃねぇぞ」
「ベラミー?……ああ、ハイエナの、でしたか」
「さすがに知ってたか、なら話は早い。あいつは何かの実の能力者だ。大抵の奴はあいつにゃ敵わねぇ」
「ほう、それはそれは。恐ろしいことです」
「さっきも暴れ回ってたって話だ。いつキレるか分からねぇイカれた野郎さ。しかも笑いながら相手を嬲り殺すような奴だ」
「成程、随分と趣味のよろしい海賊らしい海賊ですね。……店主殿、これ以上口を滑らせてはあなたの身が危うくなるかもしれません。沈黙は金とも言いますからね。そろそろ私達も行きます」
「おお、そうだな。ありがとよ兄ちゃん。そうだ、情報を集めるならこの先にある酒場に行くといい。簡単な地図を書いてやろう」
「そのようなサービスまでいただけるとは。嬉しいですね、もう1本いただいても?あなたのおすすめを」
「おう!前に仕入れた良いのがあるんだ!兄ちゃんみたいな奴にこそ飲んでもらいてぇ!」
相好を崩して一度奥へ引っ込み然程時間を置かずに戻ってきた店主の手には、少し古いラベルが貼られた米の酒があった。中瓶のそれは素人が見ても希少なもので値が張ると判るが、前の2本を高く買い取らせた店主は良心的な値で
クオンに渡した。この町の海賊どもは味わって飲むってことを知らねぇからな、と小さくぼやかれて頷く。
店主が勧めた酒場の地図と酒を受け取り、ついでにアパレルショップの場所まで聞き出してから
クオンは紙袋に入れてもらった酒を抱えてロビンと共に店を離れた。それまでずっと
クオンの隣で微笑んでいたロビンが静かに形の良い唇を開く。
「お上手なのね、執事さん。いつもああやっていたの?」
「彼は口が軽いタイプでしたから想定以上の収穫でした。この酒場も比較的安全で信頼性の高いところでしょう」
ところで、と
クオンは低くくぐもった声で軽く核心に触れた。
「なぜ私を誘ったのです?情報収集はあなたこそお得意でしょうに」
「あら、女ひとりじゃこの町を歩くのは不安だった……では、ダメかしら」
「そうですねぇ。ダメではありません、と返したいところですが」
ざわめく町の喧騒に、穏やかさを取り繕った2人の会話が白々しくとけて消える。
クオンは自分よりも長身のロビンを覗き込むようにこてりと首を傾けた。
「私を試すつもりなのであれば無駄ですからやめた方がいい。あなたを殺す気は一切ありませんので」
ロビンの表情が固まった。はりついた笑みが微かに引き攣る。図星を突かれて取り繕うのをやめた女の探るような視線を真っ向から受けとめ、
クオンは軽く肩をすくめた。
クオンの右肩に乗ったハリーがじぃと黒いつぶらな瞳でロビンを見上げる。
「私にはあなたを殺す理由がありません」
「どうして?アラバスタをめちゃくちゃにした組織の人間だったのよ、私は」
「元凶はルフィに討たれて既に監獄へぶち込まれています。それで終わり。トップの首さえ獲れればその下の者達にまで積極的に手をかけようなどとは思いません。大体、潜入目的だったとはいえあの子とて組織の一員だったのです。こちらに敵意のないあなたを討つ理由を元社員だったからと定めれば、あの子も討たねば道理が通らない」
「あの子」が誰を指すのかはロビンも分かっているだろうからわざわざ明言はしない。
ボン・クレーに関しては本気で殺そうとは思ったが、あれはビビに直接不埒な物言いをした上にメリー号を奪ったと思われかねない言動をしたためで、完全なる自業自得だ。
つらつらと理由を並べた
クオンに、それでもロビンは完全に納得はできていない様子で眉間に軽いしわを寄せている。そんなに殺されたいのなら殺してやるのもやぶさかではないが、ロビンはルフィに仲間として受け入れられてしまった。海賊の仲間殺しは大罪だ、加えて特に理由のない殺意をぶつけるつもりは微塵もない。
これで話を終えてもいいが、メリー号の中から姿を見せて以降ずっとロビンに観察するような視線を向けられ、
クオンの一挙手一投足を窺い、近寄れば体を硬くして身構える彼女は正直面倒くさい。本当に手を出す気はないのだからそんなに緊張しないでほしいと思わないでもないのだ。
「まだ理由が欲しければ差し上げますよ。ですが、その前にひとつお聞きしたいことが。――― あなたは最初から、アラバスタ王国を乗っ取るつもりなど微塵もなかったのではありませんか」
被り物を通して低くくぐもった声は質問のていをしていながら確信に満ちていた。ロビンの表情は変わらない。けれど取り繕っていたものを再びまとうこともできずに
クオンに視線を据えている。
「あなたは自分が考古学者だと私達に名乗った通り、骸骨の復元は取り扱い含めて素晴らしい手腕でした。私以上に知識も豊富で、語る口調は滑らか。歴史に深い興味と教養がある証拠でしょう。あなたが考古学者だというのも頷けます。そんなあなたが、数百年もの長い歴史を有するアラバスタ王国を、文字通り砂にしてしまうような男に素直に従うでしょうか」
クオンの口は淀みなく、酒場に向かう足もまた滞ることなく進む。
「そもそもとしてあなたはウイスキーピークであの子を殺さなかった。その素振りすらなかった。護衛隊長殿を五体満足で生かした。アラバスタまでショートカットできる“
永久指針”を渡した。……レインベースで、あの男に敗けたルフィは死ななかった。あの男の毒を受けたルフィは中和剤を飲んで無事だった。どちらもあなたが生かしたのでしょう?なぜ?あなたの目的が決してアラバスタ王国の乗っ取り─── 理想国家を打ち立てるというものではなかったからと私は考えます」
あくまでこれは
クオンの推測だ。反論の余地は十分にある。けれどクロコダイルがミス・ウェンズデーの正体がアラバスタ王女ビビだと分かっていて確実に消すためにMr.5ペアを送り込んだというのに、それを一蹴した麦わらの一味とビビを見逃したのは事実。渡された“永久指針”に書かれていた島の名前も、アルバーナ宮殿の図書室で見た周辺地図に確かに載っていることを
クオンは確かめた。
クロコダイルの計画に従いながら、それでも明らかに反意を抱いていると取られてもおかしくない言動をするミス・オールサンデーのことを、
クオンは頭の片隅で不可思議に思っていた。何の意図があって、完璧とも言える計画をふいにするような真似をしたのか。そこで導き出した
クオンの解がこれだ。
「あなたにとって、アラバスタ王国の乗っ取りは
目的ではなく手段だったのでは?」
クオンは被り物の下で薄い笑みを浮かべながら断言する。ロビンの表情は変わらない、ように見えたが、唇の端が引き攣ったのを見逃さなかった。しかしそれを指摘することなく言葉を繋ぐ。
「次の疑問は、では本来の目的とは何なのか。アラバスタ王国を、王家を滅ぼさなければ叶わなかったもの」
金や権力などではない。既にクロコダイルは民の支持を多く得ていた。金など七武海である方が余程自由に動かせる。
となれば考えつくのは王家の秘宝。それも決して口外できない、おそらくは直系のみに受け継がれてきたもの。それが何なのかは判らないし知るつもりもないのでそこで思考を切っていたが、ロビンが考古学者を名乗るのであれば想像はつく。歴史を重んじる女が、歴史ある国を滅ぼしてまで求めた禁断のそれ。在処さえ判れば王家を滅ぼさずとも事足りる。
クオンは賑やかで物騒な往来を歩きながら、ロビンにだけ聞こえる声量で囁いた。
「アラバスタ王国の
歴史の本文は、あなたが求めたものでしたか?」
「……いいえ。違ったわ。あれだけが最後の希望だったのに、ハズレだった。だからあそこで死のうと思って……そしてあなたの船長さんに生かされてしまった」
「成程、ルフィらしい」
くぐもった声に微かな笑みをにじませた
クオンは、さらに小さな声であれが読める人間がいるとは驚きですと続けた。同時に考古学者の歩いてきた道が決して安穏としたものではなかったことを悟り、8歳で賞金を懸けられたというのはそこに起因するのではないかとも推測するが確かめるつもりはないので口を噤む。
もしかしたら、ウイスキーピークを出てすぐのメリー号の上、ビビに向けた確かな侮蔑は─── 己が巨大な力に潰された過去があり、そのときの自分と無様に足掻く王女とを重ねたせいだったのかもしれない。立ち向かうこともできずに嘆くばかりの己の無力さが悔しくて、悲しくて、怒りたくて、でも何もできなくて。渦巻く感情の裏返しだったのだとしたら。それは考え過ぎでしょうか、と
クオンは内心で呟いて思考を止めた。
「そういう諸々をも含んで考慮した結果、私があなたを殺す理由は皆無だと判断しました」
これで納得できましたかと訊かれ、こうも語られては首を横に振れずに頷いたロビンは内心で舌を巻く。
この真っ白い燕尾服の人間は、頭の回転が早すぎる。船の上では船長達とバカをやって仲間に怒られていたが、それはあくまでこの人間の一側面でしかないのだろう。それに油断していると容易に足をすくわれて跪かせられる。それだけでも厄介なのに、少しでもぼろを出せばさらに深く悟られてしまう。
まさに一を知って十を知るような
クオンを前に、それは何だか面白くなくて、一方的に情報を掠め取られるのも癪な気がするロビンは表情を整えて薄い笑みを浮かべると自分よりも身長の低い
クオンを見下ろした。
「ねぇ、なら、執事さん。あなたの顔が見たいと私が言ったら、あなたは見せてくれるのかしら」
かつてはすげなく拒絶のひと言で切り捨てられたその願いに、果たして
クオンは無言を返し、だがふいにロビンの手を取ると滑るように裏路地へと身を翻した。
白手袋越しにぬくもりを感じる手の指は細く長い。大した力も入っていないそれに導かれるままロビンは
クオンと共に裏路地を行き、いくらか細道を通るとすぐに人気はなくなった。
通りの喧騒も遠く、誰もいない荒れた路地のさなかで
クオンは足を止めて振り返る。その白い痩躯がロビンに向いて、白いジャケットに包まれた腕が持ち上がり被り物に手がかかったかと思えば、猫を模した愛嬌があるようで間の抜けた被り物が何の躊躇いもなく外された。
「誰が来るかも分かりませんからね、少しだけですよ」
あらわになった秀麗な面差しが穏やかな微笑みを浮かべている。髪と同色の長い睫毛に縁取られたやわらかな光を宿す鈍色の双眸は、ひとたび蠱惑に濡れれば誰もがこの人間の目に映るべく己のすべてを差し出すだろう。雪色の髪が降り注ぐ陽の光に反射してきらきらと煌めき、一本一本が光を放っているようで、まるで夜空に浮かぶ星のように思えた。自身の美しさを理解していながら時に武器にもするロビンは、知っていたはずのその美貌を前にそれでも眩暈を覚えるほどに見惚れた。
「……簡単に見せるのね。私が仲間だから?」
「ふふ、いくら仲間といえど乞われたからといってこんなところで軽率に素顔を見せたりはしません」
あなただからですよ、と
クオンは囁いた。それはあまりに甘美な響きでロビンの耳朶をやわく叩く。
「あなたは私と似ているから、仲良くなれる気がします。ゆえに、まず先にこちらから歩み寄るのもやぶさかではないと思いまして」
自分が拒絶されるとは微塵も疑っていない、ある意味傲慢な感情でにこにこと笑って距離を詰めようとする
クオンに、ロビンの方がうろたえた。
クオンがロビンを殺す理由がなく、その気もないというのは理解できた。これからは逐一緊張する必要もないのだと。まだ自分の知る“雪狗”と実際に接する
クオンとのギャップに混乱することはあるかもしれないが、滑らかなコミュニケーションくらいは取れるようにしようと思った矢先に、
クオンの方から距離を詰められてはさもありなん。
「あなたと私が、似ている…? …そういえば、船長さん達もそんなことを……」
「ルフィが?なら私の直感は間違っていませんね、喜ばしいことです」
くるくると指先で被り物を回しながら言葉通り嬉しそうに顔をほころばせる
クオンに嘘はない。裏社会を生き抜いた経験からもそれは明らかだ。それゆえにますます困惑が深まるが、
クオンはそれを気にした様子もなく楽しげに目を細めた。そして自分と似ている女へ、「そうだ、言っておかなければならないことがありました」と前置きして経験に基づいたアドバイス、または忠告を差し入れる。
「ロビン、諦めましょう。あなたの意図がどうあれ、己の意思でルフィを選んだのなら覚悟をすべきです」
「覚悟?」
「ええ」
クオンは笑って頷く。輝かんばかりの美しい笑みを浮かべて、とろけるように甘く。
「生涯ルフィに振り回されて絆される、そんな覚悟ですよ」
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