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「とにかく、クオンは完治まで絶ッッッ対!!!何もしちゃダメよ!!!……守らなかったらあんた、ロープで縛り上げた上で箸すら持たせてあげないからね」


 ずいと顔を寄せて凄むナミの据わった目に本気だと悟ったクオンは、無言でこくこくと何度も頷いた。





† 執事の療養 3 †





 クオンの処遇が決まったことで解散となり、ビビと一緒にいれば無意識に執事として動くかもしれないからと必要以上の接触も控えるように言われたクオンはやることもなく暇を持て余し、甲板に出て肩に乗ったハリーと共に海をぼんやりと眺めていれば、「クオン!釣りしようぜ!!」とルフィに誘われて即座に応とこたえた。実際に釣竿を持たせてはくれないだろうが、何もしないで無為に時間を潰すよりは見ているだけでも有意義だろう。

 ルフィのもとへ歩み寄ればウソップとチョッパーがいて、どうやら4人と1匹での賑やかな釣り大会になりそうだ。チョッパーは知識はあるが体験するのは初めてなのか、不思議そうに、けれど目をきらきらさせて釣り針にエサをつけるウソップを見つめている。ウソップは弟分ができて嬉しいのか、どこか得意げに胸を張って「見てろ、おれにかかればでっかい海王類でさえ一発だ」と大法螺を吹いていて、そうなのか!?すっげー!と素直に信じるチョッパーに機嫌良く笑った。
 ルフィとウソップが釣竿を持ち、竿を振って糸を海に垂らす。海面は穏やかなものだ。その下には怪獣やら海王類やらが跋扈しているのだろうが、この静けさからはあまり想像できない。

 糸を垂らしたからとすぐにエサに食いつかれるわけではなく、じっと静かな海面を見つめるチョッパーにウソップがドラム島でどんな生活をしていたのかとおもむろに訊いて、それにたどたどしく、あの山の頂上にある城でドクトリーヌと暮らしながら医術を習っていたのだとチョッパーは答えた。
 話し上手だが聞き上手でもあるウソップが笑って聞きながら話を促し、海面からウソップ達の方を見上げたチョッパーは最初こそ遠慮がちだったが、話しているうちに顔に笑みを浮かべ、己も悪魔の実の能力者で、“ヒトヒトの実”を食べたのだと教えてくれ、ルフィがチョッパーはあのワポルの家来をぶっ飛ばしたくらい強いのだと自慢げに笑って、クオンとウソップがそういえばそんなことを言っていたなと思いながらも「優秀なお医者様であることに加えて強くいらっしゃるとは、素晴らしい」「そりゃすげぇ!やるじゃねーか、チョッパー!よーしじゃあ何かあったらおれを護ってくれ!」と素直に褒めれば、照れたチョッパーが「べ、別に褒められても嬉しくねーぞコノヤロー!」と体をくねらせ妙な踊りをしてみせる。嬉しそうだなー、と3人の声とハリネズミの小さな鳴き声が重なった。

 それから4人と1匹で暫く雑談を交わし、たまに釣り上げる魚をクオンが「それは毒があるので食べられません。ああ、でも解毒剤の材料にはなるので船医殿に渡した方がいいでしょう」「これは見た目はトゲだらけで身も薄いのですが、下処理をきちんとすれば問題なく食べれますし味が濃厚でおいしいですよ」「その魚は身は食べられたものではありませんが、内臓をしっかり焼くと肉に近い食感が楽しめます」「普通の魚ですね、普通においしいです」と検分してルフィとウソップが食用魚を海水が入ったバケツに放り込んでいく。小食のくせにやけに詳しいなと訊かれれば、姫様に料理を振る舞う機会も多くあったので、と隠すことでもない事実を返した。大半は実体験だということは黙っておく。


「そういや、クオンは釣りするのか?」

「そうですね……釣りはあまりしませんね。私の場合、釣りというか、漁というのがより正確かと」


 ウソップの問いに答え、手をひらめかせて手の内に長い針を現す。身じろいだ彼らに何もしませんよと言い、針の先端をよく見えるようにかざした。


「穴があいているのが見えるでしょう?ここに釣り糸を結わえたものを持って、海面から見える魚に向けて投げつけて獲るのです」


 小型の海獣を獲るときはもっと太い針を使います、と続け、再び手をひらめかせて針を手の内から消す。成程なとクオンとハリー以外の3人が声を揃えて頷いた。


「なぁ!クオンは医者じゃないけど、心得はあるんだろ?誰に習ったんだ?クオンがナミに持たせた薬も、珍しいやつだってドクトリーヌが言ってた」


 チョッパーの医者としての疑問に、クオンはすぐには答えなかった。ついと鈍色の瞳を細め、僅かに少ない記憶を辿るように宙を見る。だがその秀麗な顔には微笑みが浮かんでおり、不愉快な質問ではないことは確かだった。おもむろに形の良い唇が開き、男にしては少し高めのやわらかな声が言葉を紡ぐ。


「……薬は、世話になっていた傭兵団独自のものです。彼らの技術を叩き込まれたので、自分でも作れます。そこで最低限の心得を学び、……とある岬に住む老医に、多少の医術を習いました」

「へー、そうなのか。クオンはビビの執事なんだろ?すごいな、執事って何でもできるんだな!」

「いやいやチョッパー、何でもできるのはクオンがすげぇからだ。普通の執事はクオンみたいに何でもできるわけじゃねぇからな」


 目を輝かせて感心するチョッパーにウソップがすかさず訂正を入れ、つまりクオンがすごいってことだな!といっそう目の輝きを強くするチョッパーにクオンは少しだけ得意げに笑った。
 良い言い方をすればオールマイティ、悪く言えば器用貧乏なのだが、それをわざわざ口にする必要はないだろう。平均以上の成果を出せる自負があるため器用貧乏というのも正確ではないのだが、それぞれ専門家と比べたら劣る自覚はあるため自虐ではなく自身をそう評する。
 カリスマ性はルフィに劣り、剣の腕はゾロに劣り、料理の腕はサンジに劣り、航海術はナミに劣り、狙撃の腕はウソップに劣り、医術はチョッパーに劣り、王族としての質も誇りも当然クオンには持ち得ない。戦闘に関しては現時点では秀でているが、それもいつかは抜かれるだろうという確信があった。しかしだからといって腐るような軟弱な精神はしておらず、何より今の自分がクオンは嫌いではない。むしろ好きな方だ。目に見えて判るほど全力で愛されている己を好きにならない理由がないので、自尊心は割と高めなのである。
 だから得意げに笑ってみせたクオンは称賛を素直に受け入れ、また1匹釣り上げられた極彩色の魚を見て「味は普通ですが、鱗は装飾品としてそれなりの値段で売れますよ」と教えた。










 結局、サンジの「昼飯だてめぇら!!」のひと声が響くまでクオン達は釣りに興じることとなった。一目散にルフィが駆け出していき、そこそこの量が入ったバケツをウソップが持って、釣り糸を巻きつけた釣竿をクオンが持とうとすれば、それはチョッパーによって取り上げられる。クオンには何もさせるなって言われてるからな!と胸を張るチョッパーは、ナミからの指令をまっとうできて少し誇らしげだ。クオンも己の無意識な行動に苦笑しつつ行き場のなくなった手でチョッパーの帽子をぽんと撫でた。

 昼食を終え、さて今度は何をしようかと甲板に出たクオンは「行くぞクオン!」と手を引かれてルフィと共に前方甲板へと歩いていく。どうやら今日は一日ルフィと共に行動することになりそうだ。もしかしたらクオンが隠れて何かしないよう、見張りの意味もあるのかもしれない。
 どうせやることなど何もないし、手首を掴むルフィの手を振り払う理由もないのでなされるがままついて行ったクオンはふと、眩しさを覚えて目を細めた。見上げれば高い位置にある太陽から降り注ぐ光が強く目を灼き、午前中にはあった雲も既に遠くどこかへいっている。普段被り物をしているため太陽が眩しいと感じることもあまりないのだが、やはり素顔をさらしていれば気にしていなかった些細なことに気づいてしまう。

 クオンから手を離し、羊の船首に腰を据えて水平線の果てを見つめるルフィの背中をちらと見たクオンは手で額にひさしをつくり同じく海を眺めた。遠くでは局地的に荒れている場所が微かに見えるが、太陽の光を反射して煌めく水面みなもは青々として美しい。ふわりと吹いた風に雪色の髪が小さく揺れる。


「なぁ、何でクオンそこに突っ立ってんだ?こっち来いよ」


 振り返ったルフィに声をかけられ、隣─── 横の手すりに座れと言外に言われたクオンが能力者2人がそこに座って万が一両方海に落ちたときの危険性について説くべきか少しだけ考え、2秒でまぁいいかと考えることを放棄して手すりに腰を下ろした。白いスラックスに覆われた足を船外に投げ出す。地に足がついていない浮遊感は慣れないが、不愉快ではない。離れたところでチョッパーとナミが会話している声が聞こえた。


「……そういえば船長殿、なぜ私を抱いて眠っていたのですか?」


 今更といえば今更な質問に、ん?とクオンの方に顔を向けたルフィは気にしたふうもなくすぐに答える。


クオンが寝たあとに、ナミがクオンには何もさせないし何もさせるなって決めたからな。けど起きたらすぐに動き回るってビビが言ってよ、じゃあ起きれないようにつかまえときゃいいだろ?だからおれがクオンを抱いて寝るって決めたんだ!」


 成程、確かにその予想と対処法は正しい。事実クオンは朝焼けを見るためにひとり起き出そうとしたし、そのあとはサンジの手伝いでもするつもりだった。それを止めるにはウソップやチョッパーでは力不足で、サンジは「ふざけんな、何でおれが男相手に」と一蹴し、ゾロは何も言わなかったが眉間にしわが寄ったのを見てナミがルフィに打診し、「おういいぞ」と軽く頷いて役目を得たのだという。己の船長を軽く使うナミも使われることに何も思わないルフィも、何だか海賊らしくないが彼ららしくはあるのでまぁいいかと流すことにする。

 それから2人は、時折海面から顔を出す海王類や通り過ぎる鳥を楽しそうに眺めるルフィが「クオン、あれ見てみろよ」と声をかけて短い会話をするくらいで、あとはお互いに黙って海を眺めていた。ひねり出せば話題のひとつやふたつは出てくるだろうが、沈黙が気まずいということもないのでクオンは黙り、成り行きに任せる。クオンの肩から膝へと降りたハリーはすぴすぴと穏やかな寝息を立てていた。



 どれだけの時間が過ぎたか。陽が少し傾いた頃、巨大な鳥が頭上を通り過ぎていったのをクオンとルフィは眺め、気持ち良さそうに空を泳ぐ鳥をぼんやりと見送る。それにしてもここまで長い間船長殿が静かなことがあるんですねぇと数々のトラブルを見て時に巻き込まれてきたクオンが意外に思ったそのとき、ぱっとルフィがクオンの方を向いた。クオンもつられてルフィの方を見て目を合わせる。


「そうだ、なぁクオン!いいもん見せてやる!!」


 そう言うルフィは笑っている。クオンは「いいもの、ですか」と首を傾げた。「良いもの」ならばクオンはルフィを見ていればそれで十分なのだが、ルフィの言う「いいもの」とは何だろう。ルフィは満面の笑みを浮かべているのだから悪いはずがないのだろうが、あまり予想がつかなかった。
 すっくと立ち上がったルフィが目を瞬かせるクオンの手を引っ張る。膝に乗せたハリーを肩に乗せてクオンもまた立ち上がり、引っ張られるままルフィについて行けば、中央甲板のメインマスト下へと辿り着いた。安眠を貪っていたところを突然起こされたハリーが不機嫌そうにぷぷぷと小さく鳴く。くぁ、と大きなあくびをしたハリーの顎を撫でて宥めればつぶらな瞳がすぐにとろけた。


「それで船長殿、いいものとは?」

「ちょっと待ってろ、すぐだ。あ、そうだこれ持っててくれ」


 にっかりと笑ったルフィが頭に手をやり、麦わら帽子を取ってクオンに被せる。年月が経っているのだろう、すっかりやわらかくなった麦わらの感触に目を瞠ったクオンは帽子のつば越しにルフィを見つめた。
 これは確か、ルフィの宝物だ。ミス・オールサンデーに取り上げられて激怒していたことは記憶に新しく、知らない者はいないとされる大海賊赤髪のシャンクスから預かったものだとも聞いた。その経緯はさすがに聞いていないが、とにかく大事なそれを、なぜ私に。


「ルフィ、クオン?お前ら何やってんだ?」


 そう広くない船の上だ、しかも中央甲板ともなればすぐ人の目につく。絶対安静を厳命されたクオンとトラブルメーカーな我らが船長モンキー・D・ルフィがそこにいれば尚のこと。ぐるぐると腕を回すルフィと、麦わら帽子を被って困惑した顔を隠さないクオンの並びにウソップが首を傾げ、その後ろからひょっこりとチョッパーが顔を出した。
 だがルフィは答えず、ぐるりとクオンの腰に腕を回して3周させ、しっかりと掴むとぐっと引き寄せた。麦わら帽子に気を取られていたクオンが驚いて目を見開く。身長が変わらないから並び立てば目線は同じで、すぐ傍でにっとルフィが笑った。


「いくぞクオン!」

「え?……え?」


 ルフィが思い切り空に向かって腕を伸ばし、ヤードを通り過ぎて、見張り台のふちへと手をかける。反動を大きくしようと膝を大きく曲げるルフィにつられて身を屈めたクオンの肩から、何やら非常に嫌な予感を敏感に感じ取ったハリーがひょいと飛び降りた。


「おいまさかルフィ……!!」


 はっとしたウソップが声を上げて制止するよりも早く、クオンが我に返ってルフィに声をかけるよりも早く。


「ゴムゴムの~~~~……ロケットォ!!!!


 勢いよく空の高みへ打ち上げられた2人に、ウソップの悲鳴が轟いた。
 ぎゅんぎゅんと止まることなく空へと飛び上がり、瞬く間に眼下のメリー号が小さくなる。
 クオンは落とさないよう必死に帽子を両手で押さえていた。恐怖はないが、あまりに突然すぎて声が出ない。私が高所恐怖症だったらどうするのか、と考えはしたが、船の上から降りてきたはじめの出会いを思い出して自分からその懸念を潰していたことから目を逸らす。
 ルフィのゴムの性質を利用しての打ち上げは然程時間を経たずに終わった。ゆっくりと勢いがなくなり、白い燕尾服の尾がふわりと揺れる。


「ほらクオン!見てみろよ」


 麦わら帽子を押さえていたクオンに声がかかり、促されるままクオンは顔を上げ、視界を埋め尽くす青に息を呑んだ。
 この高さで見る大海原のあおと空のあおは色が違う。水平線で混じり合うことのない青はくっきりと区別され、遥か遠くになるほど薄くなるあおのやわらかさと太陽光を受けて白く煌めく水面みなもあおの鮮やかさは、筆舌に尽くしがたいほどに、美しかった。

 瞬くことも忘れて眼前に広がる絶景に見入る。やがて頂点に達し、僅かな間の滞空ののち、2人は来た道を戻るが如く落ちていく。それでも打ち上げられたときよりはゆるやかなそれに、クオンは鮮やかな2種類の青を見つめ続けた。静かに名を呼ばれて呆然と視線を向ければ、絶句するクオンの悪くない反応に気を良くしたルフィが上機嫌に笑う。


「よかっただろ」


 その、笑顔が。輝く太陽に照らされていっそうの光を帯びるルフィに、クオンは一度灼かれた胸がひどく焦げつくのを感じた。心臓が跳ねる。同時に引き絞られるようにも感じて、だが決して悪くない。悪くない、のではなく、これは。

 ─── ああ、本当に彼は。「良いもの」だ。

 白い燕尾服が翻り、雪色の髪は落下の勢いに大きく揺れる。鈍色の瞳をゆるりと細めて、形の良い唇に笑みを刷いた。麦わら帽子が落ちないように両手で押さえたまま、無言でひとつ頷き。
 クオンはただ、己に与えられた絶景を、ひたすら目に焼きつけた。






 遠かったメリー号が近くなり、メインマストの周りには全員が集まっているのが見える。そして何やら騒いでいる様子も。
 ルフィは落下中ヤードに手を伸ばしてくるりと数度回転することで勢いを殺し、クオンを腕に抱えたまま中央甲板へと降り立った。瞬間、ナミの怒号が飛ぶ。


「ルフィ!!あんた何してんのよ!クオンは絶対安静だって意味分かってる!?」

「大丈夫だ!クオンにはちゃんと何もさせてねぇ!」

「そうだけどそうじゃないわよ!負担かけさせんなって言ってんの!あんだけ高く飛んで、クオンだから何とかなったんだろうけど、普通の人間は気絶もんよ!?」

クオンなら大丈夫だろ。それにクオンも楽しそうだったしいいじゃねぇか」


 腰に回った腕を離し、目を吊り上げて怒るナミにルフィが平然と返す。なぁ、とルフィに同意を求められて返そうとしたクオンの口からはしかし、別のものがこぼれ出た。


「ふ…ふ、ふふふ、あは、あっははははははははは!!」

「……クオン?」


 突然腹を抱えて笑い出したクオンの名をビビが呆然と紡ぐ。だがクオンはそれに返す余裕がなかった。涙がにじむほどに笑い、つられてにっしししと笑うルフィの顔を見て尚更笑う。被せられた麦わら帽子を押さえて表情を隠すが、こぼれる笑声と震える肩までは隠せない。
 クオンは笑いながらにじんだ涙を拭った。ああ、本当に愉快な気分だ。あふれる笑みを抑えようとするが、くつくつと喉が笑ってどうにもならない。
 楽しかった。美しいものを見た。いいものを見た。「良いもの」を見た。彼らとの間に線を引き、その線に近づきはしても決して越えないようにしていたのに、しようと思っていたのに、それを無遠慮に灼いた光はあまりに鮮烈だった。ああ、本当に、そんなことをしようと思っていた自分がバカらしいと思うほど。


「ははは、はは、……ふふ、……船長殿」


 麦わら帽子に手をかけ、ようやくおさまりつつある笑みに喉を震わせながらクオンは言葉を紡ぐ。ルフィに帽子を返して被せ、見るものすべてを撃ち落とすような美しい微笑みを浮かべるそのかおを真っ直ぐに向けた。


「とてもいいものを見させていただきました。ありがとうございます、楽しかったですよ」

「おう!」


 上機嫌に笑うクオンに、にっかりと上機嫌にルフィも笑う。クオンの笑みに撃ち落とされて崩れ落ちたのはビビとナミとウソップとサンジで、人間の美醜がいまいちよく理解できないトナカイのチョッパーはそれでもクオンの笑みが美しいものだと分かり、何より言葉通り楽しそうだと読み取れてよかったな!と笑う。
 胸を押さえて甲板に倒れ込んだ面々を一瞥したゾロは深いため息をつき、ルフィとクオンに巻き込まれる前にひとり逃げ出して自分の肩に乗るハリネズミをじろりと睨んだ。


「あれどうにかしろ、お前の相棒だろ」

「きゅあはりゅり」


 短く鳴いたハリーが何と言ったのかは分からないが、諦めろ、という意味を多分に含んでいたことは、何となく読み取れた。





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