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 痛みは感じなかった。ただ鈍い熱さがあった。体内を異物が貫く感触は相変わらず気分がいいものではない。
 被り物を余裕で貫いて余るほどに長い穂─── 刀身の部分が半分以上クオンの左の手の平を貫いて地面に埋まっている。無理やり動かせば間違いなく左手はちぎれるだろう。
 左の手の平からあふれる鮮血が白手袋を汚し、地面を赤く濡らす。力なく開かれた指から青白い針が転がり落ちた。それをやはり無感動に見やり、クオンの首に手をかけたまま男は低く呟く。


「弱いな」





† アルバーナ 4 †





 抑揚に欠ける淡々とした声音は呆れるものでも見下すものでもなく、ただただ事実を告げる透明な響きをしていた。
 クオンの首を掴んだまま、覆いかぶさるようにしてユダが覗き込む。その顔は逆光になって表情が読みにくく、目許を濃いレンズのゴーグルで覆われていることがさらに助長していた。男の形の良い唇が動く。


「自分でも分かっているだろう、おれに敵わないことくらい。お前ではおれに勝てない。お前は弱い。諦めろ。大人しく転がってろ。無力さを噛み締めろ。お前は何も救えない。何も残らない。王は討たれ、王女は絶望の末に死に、国は滅ぶ。ああ、麦わらの一味の首もひとつずつ持ってきてやろうか」


 まるで良い思いつきをしたようにユダが低く唇の端を歪めて嗤い、クオンの顔が強張った。
 呪詛じみた言葉が耳を通って頭の中を巡る。お前は弱い。何もできない。這いつくばって転がり落ちる首を数えることしかできない。愛する王女の骸を掻き抱くことすら許されることはなく、大切な仲間が殺されるのを眺めることしかできないと男は嗤ったのだ。


「お前は殺さない。殺してなどやらない。絶望しろ、足掻いた末に無様に這いつくばれ。目の前で大切なものをおれに奪われていくさまをその目に焼き付けて心を枯らせ。おれはお前のすべてを奪うぞ。お前が得たものすべてを壊してやる」


 初めてユダの顔に感情がにじむ。頬を引き攣らせてまとう空気が冷たく張り詰めていく。それは怒りのようであり、恨みのようであり、そして悲しみのようでもあった。あるいはそのすべてのようで。
 クオンは努めて呼吸を整え、「復讐ですか?くだらない」と明らかに挑発の言葉を吐いた。クロコダイル同様、この男も記憶を失くす前のクオンと何らかの因縁があり、それを今のクオンで果たそうとしていると思ったのだ。しかしユダは挑発に乗らず、「復讐?」と心底不思議そうに繰り返す。まるで見当違いのことを言われたとばかりにゆるんだその隙を、クオンは逃さない。


「あなた、ごちゃごちゃうるさいんですよ!!!」

「ッ!!」


 全霊をかけて悪魔の実の能力を発動し、渾身の力をこめてユダの腹にブーツの底を叩きつけた。無防備な腹に重い蹴りが入り、思わず呻いて槍から手を離した男がクオンの上から吹っ飛ぶ。
 クオンは左手に刺さる槍を乱暴に引き抜いて跳ね起きた。白手袋を真っ赤に染め上げた鮮血が指先を伝ってぽたぽたと雫をこぼす。
 槍が重い。持てないほどではないが僅かに肩が沈む重さに、相当な重量がありそうだとは思っていたが、予想通りかそれ以上に重く感じる槍を軽々と己の体の一部のように振るうユダの膂力に内心で舌を打った。
 敵の武器を遠くに放り捨てようとして、右手から力が抜けて地面に落とす。ガランと鈍い音を立てて槍が転がり、拾うよりも放置しておくことに決めたクオンは視線の先─── 数m離れた場所で足をつけたユダを睨んだ。


「あなたが何をもって私に執着を向けるのか、興味はありませんしどうでもいい。私があなたより弱かろうが何だろうが、ここであなたを倒すのは確定事項です。ええ、何とかしてみせますとも。姫様は死なせない。国も滅ぼさせはしない。仲間にも指一本触れさせない。私がそう決めたのです、誰に何と言われようとも曲げたりはしない」


 なにせクオンは、一度決めたことは実行することに定評のある執事なので。
 それに、クオンはもう、この戦いが終わるまで難しいことを考えるのはやめたのだ。緑の髪の男が余計なことを考えるなと言ったから、揺らぎそうになったら仲間を思い出せと言ったから、言葉を飾ることのない実直な男に頷いたクオンの心は、どれだけユダが呪いの言葉を吐こうとその呪詛に蝕まれることはない。
 今考えるべきことは目の前の男を倒す方法、それだけだ。


「─── 愚かな」


 ぽつり。低い、憐れむような声が落ちた。腹に足跡の形についた砂を払ったユダがゆらりと顔を上げてクオンを見る。


「お前はもう少し賢いと思っていたが、記憶と一緒に聡明さをも失くしたか?おれがお前の悪魔の実の能力を知らないとでも楽観的なことを思っているんじゃないだろうな」


 ぴくりとクオンの柳眉が跳ねる。だが何も言わずに血に染まった左手の手袋を外し、右手も外して投げ捨てた。左手の傷を針で塞いでいく。


「お前が食った悪魔の実の能力は、物体を操る─── 右手で・・・引き・・寄せ・・左手で・・・引き・・離す・・。違うか?」


 事もなげに能力を詳らかにされ、しかしクオンは微かに鈍色の瞳を細めただけで無言を貫いた。だが内心で成程と納得する。
 だから、針を飛ばすときに使う左手を先に潰したのか。針で傷は塞ぎはしたが応急処置にもならないだろう。なぜならば───


「それに、悪魔の実の能力を使えば使うほど反動に・・・苛まれる・・・・ぞ。傷は開いて骨は折れる。……おれを倒す前に、その肉体が壊れなければいいな」

「随分とまぁ、私に詳しいようで。ご忠告をどうも。ですがご安心を、私は五体満足で勝ちます」


 ユダの言葉を何一つ否定せずにクオンは唇を歪めて笑う。と、右手で口元を覆って小さく咳をして、こぼれた血に濡れた右手をハンカチで拭い、赤く染まったそれを折りたたんで懐に戻した。
 仲間にすら秘匿し続けてきた悪魔の実の能力はユダに知られており、デメリットさえ筒抜けである事実にしかしクオンは顔色ひとつ変えない。だからどうした、とそのふてぶてしい不敵な態度が物語っている。根拠のない自信に満ちた頑強な精神を前にしたユダは何かを考えるように少しの沈黙を挟む。


「成程、これが鋼メンタルというものか。厄介なことだ」


 感心したように頷き、本当にお前の心を粉砕するには手がかかる、と吐き捨てられた。まるでこちらが悪いような物言いに、思わず失礼ですねと胡乱な声がもれる。
 針を両手の指に挟んで身構えるクオンを一瞥し、ユダはいいことを思いついたのか小さく頷くと両手を軽く合わせた。


「では別方面から攻めてみよう」

「いいでしょう、受けて立ちます」


 しかつめらしく、真面目くさった顔で2人は向かい合う。
 ユダはどうしてもクオンの心を折りたい、一方のクオンは折れるものなら折ってみろと迎え討つ気満々である。何をどう言われたとしても、クオンは絶望などしてはやらないのだ。それをユダが望んでいるのなら尚のこと。
 たとえ無様に地に伏せることになっても、記憶ごと何もかもを失くして空っぽだった身に惜しむことなく注がれた多くの愛を享受し、大切だと認めた仲間がいる限りは決して折られはしない。クオンの心を砕くためにビビや麦わらの一味に手を出すのならば、その前にクオンが命に代えてもユダを殺すだろう。

 さて、何をするつもりなのか。物理的にクオンを痛めつけたところでクオンの心は折れない。呪詛じみた言葉を吐こうともクオンは聞く耳を持たない。うるさい、私、お前、倒す。絶対にだ。右ストレートでぶっ飛ばす。そんな脳筋、失礼、目的オンリーの単純明快な思考回路でその場に立っている。理性を有したバーサーカーだった。
 そんな、物騒な光をちらちらと鈍色の瞳に宿すクオンへ、ユダが静かな問いを口にした。


首は見つかったか・・・・・・・・?」


 脈絡のない問いに、クオンの眉間に怪訝なしわが寄る。問いの意図が読めずに無言を返すクオンユダはさらに続けた。


「お前も世話になった、カオナシと呼ばれる傭兵集団のリーダーの首だ。被り物の中には何もなかっただろう?中身・・をちゃんと見つけて弔ってやったか?」

「─────」


 クオンは呼吸を止めた。限界まで見開かれた目が凍りついてひび割れていく。一瞬心臓が止まった気がして、どくんと不穏に大きく跳ねた。

 脳裏に甦るのは、夥しい血に濡れた地面に転がるカオナシ一族の骸。誰一人として息のある者はなく、まったくの部外者であるはずのクオンが─── カオナシの全員に愛されすべてを受け継いだめぐし子だけが残された。
 転がる骸についた傷は刃物のそれだった。心臓を貫かれたものもあった。顔の見えない、一族に伝わる被り物をして常に素顔を隠していた者達は、すべてすべて赤く染まって無造作に地面に打ち捨てられていて。
 その中でひとりだけ、首のない誰かの骸があった。否、クオンはひと目してそれがマクロと名乗ったカオナシの長だと分かり、全身を黒い衣服に身を包んだ男の、愛嬌があるようで間の抜けた黒い猫の被り物を外そうと持ち上げて─── からっぽの被り物についた、点のようながらんどうの目が、クオンを映したのだ。


「なぜだ!!!」


 クオンは怒鳴る。頭の中をよぎっていく過去の記憶を辿りながら喉の限りに叫んだ。
 首のない骸は黒い男だけだった。なくなった首はどれだけ探しても見つからなかった。全員の墓を建てても、あの地を去ると決めて出て行く直前まで諦めきれずに探して探して探して、それでも見つからなかったものの手掛かりをユダが持っている。それどころか、彼の首を斬り落としたのは己だと言う。つまりは、クオンを愛したカオナシの一族を滅ぼしたのが、自分だと。

 強い感情に煌めく目でユダを射抜き、クオンは一足飛びでユダへと飛びかかった。振りかぶった蹴りは軽く躱され、飛ばした針は横に跳んで避けられる。そこに追撃の針を飛ばしたが、やはりユダは表情を変えないまま肉迫する針のすべてを手刀で叩き落とした。
 決して手を抜いたわけではない攻撃すべてをいなされ、クオンは口元を歪めて唸る。


「なぜ彼らを殺した…!彼らが殺されなければならない理由がどこにあった!!」

「奴らの残り時間はもって数年だった。そうだろう?どうせ短い命、おれが有意義に使ってやっただけのこと」

「ふざけるな!彼らを皆殺しにして何を得たというんだ!!」


 普段の冷静な態度も敬語も忘れて激昂し怒鳴るクオンへ、ユダは口端を吊り上げて嗤う。


「得たものなどない。言っただろう、おれはお前のすべてを奪うのだと。奴らは、お前を壊すために殺したにすぎない」


 まぁつまりは、お前のせいで死んだわけだ。お前なんぞを拾って、愛したから、おれに皆殺しにされた。
 つらつらと吐き出される言葉が、クオンの頭をくわんと揺らす。頭に血が昇り、ちかちかと目の前に星が散った。
 ユダの言葉に嘘はない。本当にそのためだけに、カオナシの一族は滅ぼされたという。

 あんまりな事実を聞かされて立ち竦むクオンは隙だらけだ。先程のクオンのように一足飛びで肉迫したユダは、クオンが避ける間もなく足を振りかぶった。
 クオンがはっとするも既に遅い。めご、と重い蹴りが横腹に叩き込まれる。反射的に展開した能力で威力は削がれたものの、ばきんと骨が折れる音がした。もし能力を使っていなければ内臓が潰れただろう。


 ドゴォオオンッ!!


 白い肢体が吹っ飛び、建ち並ぶ家の壁を砕いて屋内へと叩き込まれた。家にあいた大穴の周りに走るひびが広がり、次の瞬間がらがらと崩れて壁が瓦礫と化す。砂埃が大量に舞って視界を遮った。
 クオンは家に突っ込んだ勢いのまま叩き込まれた壁とは反対側の壁際に据えられた棚にぶち当たってようやく動きを止めた。木製の棚は大破し、木片と棚に並んでいたものが抗議するようにクオンの体を叩いて床に転がる。大きな瓶は運良く割れずに地面に転がり、蓋がされているためこぼすことなくその中身を大きく傾けていた。
 クオンは静かな瞳でそれを見た。軋む体をゆっくりと起こし、右脚がかくりと折れて、けれど構わず再び立ち上がる。
 瓦礫を乗り越えて外に出れば、地面に転がっていた槍をユダが拾い上げていたところだった。クオンに気づいて槍を構える。

 ユダはあまりに強い。槍術はもちろん、体術ですらクオンに敵う余地はどこにもない。武器が己の手を離れたときのことを想定して相当訓練してきたことは容易に読み取れるほど。力の差は歴然で、真っ向勝負に勝てるはずもないことをクオンはよくよく分かっていた。
 ─── だが、それが何だというのか。


「もう終わりにするか。だらだらと戦う趣味はない。足の腱を斬り、腕も片方飛ばせばさすがのお前でも大人しくなるだろう」


 淡々としたユダの物言いは、成程確かにそれを実行するに足る力がある。そしてクオンにはそれを防ぐ力はない。時間を稼ぐにしても、もって数分か。
 クオンの視界が赤く染まる。正確には右目が、開いた額の傷からあふれた血に濡れた。それでもクオンユダから視線を逸らさない。
 ゆらりとクオンの左手が上がる。宙に浮かぶ無数の針にユダの表情は変わらず、「魚虎ハリセンボン」と冷たい声音が耳朶を打った瞬間には音速を超えて迫るそれを槍で捌いた。短く重なった固い金属音が響く。時間にしてほんの数秒後にはユダの足元には針の残骸が転がり、そしてクオンは、槍を払って針の欠片を落としたユダの懐へと入っていた。
 傷が開いて真っ赤に濡れた左手をユダの喉元に突き出す。だが行動は読まれていたのだろう、やはりユダは表情を変えないまま一歩後退って体を後ろに傾け、顎下から打ち上げられた針を躱した。そのまま右手に持っていた槍を左手に握り直し、体勢を元に戻すと同時にクオンの右肩を貫いた。


「……ッ!!」


 麻酔で痛みを消してはいたがそれでも神経を抉られた痛みが脳天を突き抜け、悲鳴だけは歯を食いしばって耐えたクオンの右肩から鮮血があふれて瞬く間に白い燕尾服を赤く汚していく。このまま穂先を上に薙げば、右腕は宣言通り斬り飛ばされるだろう。左手は能力行使の反動で傷が開き、神経が傷ついたか、既に感覚がない。
 物体を引き離すための左手は潰れ、引き寄せるための右手は腕ごとなくなろうとしている。指一本動かそうものなら瞬時に欠損することを悟りながらもクオンは煌めく鈍色の眼差しでユダを睨み、絶体絶命の状況であるのに一片のくもりもないクオンを見てユダが口を開く。
 ─── しかし、ユダは舌に乗せるはずだった言葉とはまったく別の音をこぼした。


「あ……?」


 ユダの腹から、鋭い針が何本も覗いていた。
 熱砂の国の太陽の光を浴びて煌めく無数の針は、他にも胸元、両腕、脚と、全身を深く貫いている。
 何が起こったのかが分からず困惑をにじませるユダが頬を引き攣らせる。濃いレンズのゴーグルの向こうにある目が、ぎしりと軋んだのをクオンは見た。


「針…?バカな、右手は封じたはずだ。お前が能力を使うために右手を動かそうとすれば」

「ええ。その瞬間に私の右腕は宙を飛んだでしょう」


 全身を針に貫かれて動くこともままならないユダは、まさしく海を漂うハリセンボンのようだ。
 無造作に槍の先を右肩から外したクオン左手・・を軽く振る。途端、地面の下から勢いよく青白い針が突き出てユダの足を貫き、割れた針がパキパキと硬質な音を立てて周囲のものを凍らせていく。遅れてもう1本、槍を握るユダの左手を貫いた凍針こごばりが氷の衣を広げていった。完全に身動きを封じられたユダの表情が変わり、クオンは微かに目を細める。


「情報が古く、欠けているんですよ。私は能力の行使に必ずしも手を必要とはしません」


 ユダの言った通りに能力を使えば多少は反動がましにはなるが、その程度。
 だが普段のクオンは意識して物体を引き寄せるときには右手を、引き離すときには左手を使ってきた。なぜか?決まっている。相対する者に観察され法則を見抜かれれば、それが敵の隙になるからだ。今のように。


「だが、こんな大量の針…ッ!仕込めるだけの時間はなかったはずだ!お前が飛ばした針はすべて砕いた!!」


 さすがに分が悪いと理解したユダが己を貫く針をどうにかするべく身じろぐが、小さく揺れてちりちりと針同士がこすれて音を立てるだけ。後ろに跳んでユダから距離を取ったクオンは唇を吊り上げて不敵に笑った。


「誰が相手が私ひとりだけだと言いました?私の相棒はとても頭が良く、そして穴掘りが得意なのですよ」


 クオンはやさと針の相性が悪いことを分かっていた。己の特性を理解し、それでも選んだ武器が針だ。
 欠点は己の器用さで補えばいい。そして、クオンにはとても頼もしい相棒がいる。ユダの気を引いて地上で戦っているクオンが決め手を放てるように地面の下に針を用意しておくことなど、ひと仕事終えてクオンの肩によじ登った砂まみれのハリネズミには造作もないことだった。
 “偉大なる航路グランドライン”産の普通ではないハリネズミにユダの表情が凍りつく。さすがに想定外、というより最初から思考の片隅にもなかっただろう。この小さな生き物が不動の盤面をひっくり返す鍵になるとは思えるはずもない。


「─── 火針ひばり


 笑みを消したクオンユダを中心に、内側で燃え盛る針が宙に浮かんで切っ先をこちらに向けて周囲を取り巻く。ゆうに数十本は超える量の火針に、ユダは口の端を引き攣らせて笑った。


「いいだろう、やってみろ。所詮は炎、耐えきったそのときにお前の両腕を刎ねてやる」


 そうだ、ユダは強い。おそらくはその肉体も頑強だ。マグマを原料にした炎の針を打ち込まれたからと言ってそうそう簡単に倒れるとは思えない。だからこそもう少し削ってからと考えていたが、思わぬ拾い物をしたために決着を早めた。
 クオンはおもむろに右手を上げた。その手にどこからか大きな瓶が飛んできておさまる。白い粉がほぼ満杯に入ったその瓶を見て、ユダはすぐにそれが何なのかを悟ったようだった。凍りついた顔を一瞥したクオンは蓋を外し、大きな瓶の底を持って、真上に放る。空中で瓶が傾き、その中身をぶちまけて白い粉が舞った。


「耐えられるのなら耐えてみてください」


 白い粉が舞い、燃える針が男に迫る。
 火針が身動きできずにいる彼に降り注いで着弾し、瞬間炎を上げ─── 飛散した小麦粉に着火した炎は、凄まじい爆発を引き起こした。





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