164
3ヶ月間ありがとう!
阿笠君に会えてとっても楽しかったよ!
バイバイはイヤだからまた会おうね!
10年後のこの日、お日様が沈む前に
思い出のあの場所で…
会えなかったらそのまた10年後…
おばあちゃんになっても待ってるから、
もしもヒマだったら会いに来てね
大大大好きな阿笠君へ…
11月24日 4年A組 木之下 ●●●
|
□ 博士の初恋 2 □
これはまた、随分と熱烈で微笑ましい手紙だ。
最後の名前の部分は、当時雨が降っていたこともあり濡れて滲んでしまったようで、読めなくなっている。しかし苗字は分かる。木之下、という女の子だ。
哀が博士に結局会えたのか訊くと、その思い出の場所が判らなかったため、会えずにいたのだと言う。博士のことだから今までもちゃんと思い出の場所候補で待っていたのだろうが、どうやら外れたらしい。
しかし、11月24日。何の偶然か、今日がまさにその日だ。子供達もそのことに思い当たり、今日もその場所で待っているかも!と声を揃える。
「でも肝心のその場所を博士が思い出さないと」
「す、すまんのぉ…」
「─── ったく。昔からこういうことには疎いからなぁ博士は」
呆れたようにコナンが言うが、哀と歩美から向けられる視線の通り人のことは言えない。
男とはこういうものなのだろうか。思わず隣の快斗を見て、快斗はすぐに
ひじりの視線に気づくと首を軽く傾けながらも満面の笑みを見せた。
「……」
まぁいいや。快斗が可愛いし。
段々自分がダメになっているような気がするが気にしないことにして、せっかくなのだし博士とその女の子を会わせてやろうとそれぞれ頭を悩ませる。
元太は最初に出会った場所、大きな犬を飼っていた野井家ではないかと言うが、葉書をもらった10年後に行って1日中待ってみたが誰も来なかったらしい。ならばハムスターを飼っていた蝶野家。しかしそこも20年後の前の日から泊まり込んで待っていたが来なかったという。
博士の実家は既に田舎に引っ越してしまったためその子からの手紙は届かず、博士から手紙を出そうにも名前と住所も判らない。
名前も知らないというところに引っ掛かってコナンが「小学校に聞けばすぐ教えてくれたんじゃねーのか」と言うが、博士はどうせ10年後に会えるのだからと聞かずじまいだったらしい。
「確か博士も帝丹小だったよね?」
「んじゃ電話してみるか?」
「あ、でも、今日は日曜日だから校務員のおじさんしかいませんよ」
「それに40年前だからなぁ…名簿が残ってるかどうかも怪しいぜ?」
子供達に続き、快斗が望み薄だと不安を口にする。加えて哀まで辛辣なことを言い始めた。
「それに、仮にそれで住所と名前が判り、運良く連絡が取れて会えたとしても、彼女を傷つけるだけじゃないかしら?博士は彼女が大切にしてる思い出の場所が判らずに、40年間無意味に待たせ続けていたってことがバレてしまうんだから」
「そこまで言わないであげようよ、哀。博士も一生懸命悩んで、博士なりの思い出の場所で待ってたんだから」
「…そうね。悪かったわね、博士」
「い、いや…」
あっさり謝る哀にあながち外れておらんしのぅと博士が苦笑して首を振る。
博士もその女の子も、全く別の人間だ。生まれも育ちも違う。感覚も思考も。だから、博士にとっての思い出の場所と、女の子にとっての思い出の場所は違って当然なのだ。
「ま、とにもかくにも、その思い出の場所ってのを何とか博士に思い出してもらって、その女の子と再会しようぜ!…っと、40年前だからもう素敵な貴婦人か」
「し、しかし40年も前のことじゃから、思い出せと言われても…」
快斗の言葉に博士が顎に手を当てて悩み始めるが、ふいに「手掛かりならあるぜ」とコナンが葉書を掲げる。
指し示されたのは、宛名の下に書かれた数字。「4163 33 6 0」。ヒントは動物だよ、と書かれている。
博士にこれが分かるのなら40年間会えずじまいであるわけがない。ではコナンに解けるかと言われても、コナンにすらさっぱり。当然
ひじりと快斗にも分からない。
日没まではあと4時間。あまり時間はない。
こうなったら小五郎に解いてもらおうと光彦が提案するが、小五郎は沖野ヨーコと中山未紗のジョイントライブに行っているため不在とのこと。では園子は、と元太が言うが、園子は蘭と本日限定発売されるブランド品を買うために朝から並んでいるらしい。そもそも、コナンが解けずにいるのにあの2人に解けるとは思えないが。
快斗は本日限定発売のブランド品に心当たりがあるらしく、それって、と声を上げる。
「もしかして来日記念のフサエブランドのことか」
「そう。蘭が絶対買うんだって意気込んでたよ。何でも、小学校に入ったばかりのときに、そのフサエ・キャンベルって人と出会って約束したんだって」
「へぇ」
「よく憶えてるな、
ひじり」
「発売が決定したときにもう一度聞いて思い出したからね」
成程とコナンが納得する。
フサエブランド。イチョウ柄がモチーフとされたそのブランドは、財布やカバン、キーケースやアクセサリーなど高級品からリーズナブルなものまで幅広く取り扱っている。
出回り始めたときは然程有名ではなかったが、ここ10年で名を上げたらしく、最近では若い女性から年配まで、あらゆる層に人気なのだとか。
哀も興味があるようで、ブランド品と聞いて高いんだろと眉を寄せる元太にリーズナブルなものも数多く出していると反論し、「数?」と歩美が目を瞬かせた。
「ねぇ、ひょっとしてこの暗号、わたし達の小学校の動物の数じゃない?」
「え?」
「ほら、うさぎさんは6匹いるし…鳥さんは、ニワトリさんやジュウシマツさんやハトさんを合わせると全部で33羽いるし」
「じゃあ0は?」
「夏休みに死んじゃったカメさんの数だよ…」
なかなか的を射ているが、それはありえない。何せこの暗号を書いたのは40年前。そして「おばあちゃんになっても」と書かれている以上、数が増減しやすい生命体を表しているわけではないだろう。
案の定、博士は笑って否定し、博士が小学生のとき亀は生きており、亀以外に飼っていたのはニワトリくらいだと言う。それに、それだと最初の4163の説明がつかない。そっか、と歩美は納得した。
「4163 33 6 0…ん~…?」
「動物がヒント、と言ってもこれは難しいね」
だが、小学生が考えた暗号だ。そう難しく考える必要はないだろう。となれば、ヒントはもうひとつ、その女の子自身ということになる。
「あの女の子は確か、犬を飼っていて…」
「最初は動物嫌いで…」
「でも博士のお陰で克服できて…」
「野井家でも蝶野家でもない…」
う~ん、と
ひじりと快斗は頭を悩ませる。
数字のヒントはいったい何を表しているのだろう。動物を表しているのだとして、語呂合わせで読んでも意味が分からない。
これは博士に何とか思い出してその女の子についての情報を引き出してもらわなければ。
「…博士、その女の子って」
「「「それだ!!」」」
「動物園!」
「きっとそこですよ!」
「絶対ぇそこで待ってるぜ!」
いったい何事なのか。さすがに聞いていなかった
ひじりは、動物園よ動物園、と歩美に腕を引かれても曖昧な返事しかできない。
仕方ないのでコナンに目を向けて事情を聞き、4163が当時亀を寄贈してくれていた東都動物園初代園長の
小畑 与一郎のことではないかということらしい。
いや、それでは残る数字の意味が。しかしはしゃぎ回る子供達を前にすると言えず、手掛かりもないのだから行ってみる価値はあるかと、
ひじりは出掛ける準備を始めた。
← top →