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「ひじりお姉ちゃぁ~~~~ん!!!」
「ひじりお姉様ぁ~~~~~!!!」
「「よかったよぉおおおおおおお!!!」」
「…………とりあえず涙と鼻水拭こうか」
□ これから 6 □
ひじりが突如再び姿を消したことで、新一もいなくなったのに
ひじりお姉ちゃんまで!と蘭はやはりひどく泣いたらしい。
安心させるために顔を出すとなぜか探偵事務所に一緒にいた園子まで再会して泣き出し、両腕にしがみついてくる少女2人の頭を撫でながら、コナンにしたものと同じ説明を離れて見ていた小五郎にも聞かせた。
「成程……しかしまあ、目立つ怪我もなく無事でよかった」
「本当に心配おかけしました」
両腕にしがみつかれているので軽い礼になったが、気にすんなと手を振った小五郎が
ひじりが誘拐されたと知った日に寝ずに捜し回ってくれたことをコナンから聞いていたので、ありがたくも申し訳ない。
突然いなくなって、知ったのは全てが終わったあとに人づてで、大丈夫だと聞いていても姿を見るまで安心しきれなかっただろう。また誘拐されたのだと聞いていれば尚更だ。
「それで、蘭、園子、小五郎さん。今回の事件は誰にも言わないでほしい。もし今回の事件が広まってしまえば、私を助けてくれた人達が動きにくくなるから」
「……分ぁーったよ、仕方ねぇ。お前らも、それでいいな?」
「うん…犯人、絶対に捕まってほしいし…。犯人の奴、見つけたらただじゃおかないんだから…!」
「わたしも約束するわ!それが
ひじりお姉様のためになるんだものね!」
素直に頷いてくれた3人にほっと息をついて、
ひじりはふと向かいのソファ─── 小五郎の隣に腰かけるコナンと目を合わせるとあいている膝を一瞥してコナンに戻した。
来てもいいよ?無言でそう言った
ひじりにムッとし、コナンは腕を組んでそっぽ向く。
ひじりはようやく涙を止めた少女2人を優しく撫で、無表情をやわらかく緩めた。
「ただいま、みんな」
「「おかえりなさい!」」
「ああ、おかえり」
ひじりの言葉が含む意味を知らずとも、3人は笑顔でおかえりと言ってくれる。赤井達に連れ出されて聞いたときとは違うように聞こえる、当たり前のように発されたその言葉が嬉しかった。
「あ、そうだ
ひじりお姉ちゃん。この子江戸川コナン君っていうのよ。新一の遠い親戚なんだって」
「うん、さっき阿笠博士の家で会ったから知ってる。ここで暫くお世話になるんだって?」
「そういえば一緒に来たんだったわね。ごめんなさいコナン君、突然のことでびっくりしたでしょう?」
「ううん!みんな
ひじり姉ちゃんのこと大好きなんだなーって分かったから、全然大丈夫!」
完全に忘れられていたコナンは、まだ少し不自然ながらも子供らしくにこにこと笑って手を振る。
江戸川コナンと名乗りはしているが、中身は紛れもなくあの高校生探偵なのだと知っている
ひじりにとって新一が子供のふりをしていたり「
ひじり姉ちゃん」と呼んでいるのを聞くと思わず笑いそうになるが、幸いそれが表に出ることはなかった。
なかったが、長い付き合いで見抜かれているのだろう、コナンは半眼で睨んでくるが無言でスルーだ。
子供らしくないため息をついたコナンは、
ひじりから蘭へと視線を移した。
「
ひじり姉ちゃん、新一兄ちゃんがいない間は阿笠博士の家にいるんだって」
「え、そうなの?」
「うん。ひとりであの家に住むより博士と住んでた方が安全だって」
「そっかぁ、それもそうね。まーったく、新一も早く帰ってきなさいよねー」
「ははは…」
蘭の言葉にコナンが乾いた笑いをもらす。まあまだ当分は帰れないだろう。
ひじりは阿笠邸に移り住むことになるが、荷物は工藤邸に残したままだ。あとで博士と共に
ひじり用のベッドや机、タンスなどを買いに行く予定なので、そのときにでも移せる分は移しておこう。
「そういえば新一君、
ひじりお姉様が誘拐されてたこと、知ってるのかしら?」
「知ってるみたいだよ。『心配かけさせんな!』って、すっごく怒ってたから。ね、
ひじり姉ちゃん?」
「今度とびっきりのレモンパイ作るから許してもらおう」
「それなら許しちゃうね!」
どうやら許してくれるらしい。
ひじりはコナンの頭をくしゃくしゃに撫でた。照れくさそうな顔をしたが嫌ではないらしく、なされるがままのコナンの頭を最後に優しく叩く。
手を離せば、ふいに園子がすっかり短くなった
ひじりの髪をひと房、そっと掴んだ。
「でも
ひじりお姉様、せっかくの長い髪、切っちゃったんですか?」
「うん、イメチェン」
「……あれ?
ひじりお姉ちゃん、そんなピアスしてた?そういえば髪飾りがない…っていうか、ピアスホールあけてたっけ?」
髪は当然気づくとして、ピアスにも目敏く気づいた蘭は、
ひじりの髪に咲いた四葉のクローバーが消えていることにも気づいた。
髪飾りが消えて、代わりに同じ色の石をした同じく四葉のクローバーのピアスが耳に咲いた。となれば、女の子が連想することは限られる。
「もしかして、黒羽君と何か関係があるの?」
「まさか
ひじりお姉様、黒羽君のためにイメチェンしたとか!?」
「そーいえば何かその黒羽って兄ちゃん、
ひじり姉ちゃんの彼氏なんだってねー」
「「えええぇええええええぇえええぇえ!!?!?」」
じっとりとしたコナンの目と言葉から蘭と園子が絶叫することが予想できていたため、耳を塞いでいた
ひじりはステレオで突き刺さる声を何とか回避することができた。
だが突然のことに耳を防げなかった小五郎は、「うるせえ!」と眉をひそめると立ち上がり、ついていけないとばかりにデスクについて新聞を広げる。しかしそんなことに蘭と園子が気づくはずもなく。
「彼氏って、いつの間に!?」
「
ひじりお姉ちゃんが言ってた“けじめ”って、結局何だったの!?いつつけたの!?」
「何かー、ボク達が心配で死にそうだってときにーちゃっかり会って告白されて受け入れたみたいだよー?……ん?けじめ?」
「何で黒羽君だけ
ひじりお姉ちゃんと会えたのよ!?」
「ずるい、ずるすぎるわ!次会ったらタダじゃおかないんだから!」
拳を固めて目を据わらせる蘭と園子に、心の中で快斗に手を合わせる。そして余計なことを言ったコナンを咎めるように睨むが、コナンはそっぽ向いて素知らぬふりだ。
小さくため息をつくと、色恋沙汰が好きな女子高生2人は急に怒りを鎮め、目を輝かせて
ひじりの腕にしなだれかかった。
「そのピアス、黒羽君のためにあけたのよね?プレゼント?髪飾りはどうしたの?」
「そーれーでー?どのタイミングで?どんな台詞で告白されたんですか?教えてくださいよー
ひじりお姉様!」
ねえねえと興味津々で顔を覗きこんでくる蘭と園子を交互に見、蘭の質問には「髪飾りなくしたって言ったら代わりにくれた」とコナンにしたものと同じ返事をして、園子の質問には少し考え、するりと腕を引き抜くとそっと立てた人差し指を唇に当てた。
「それは私と快斗との2人だけの秘密。あの時の快斗の言葉も顔も、私だけが知っていればいい」
ふわりと、
ひじりはやわらかく目を細めて小さく微笑んだ。
その顔は無表情に近しく、だがほんのりと頬は色づいていて、自然と漏れ出た色気が
ひじりを間違いなく恋する乙女に見せ、綺麗に整った顔を可愛らしく緩めた
ひじりに蘭や園子、向かいで見てしまったコナンは揃って思わず頬を染める。
物心ついたときから
ひじりを見てきた幼馴染2人は、
ひじりのそんな顔を初めて見て息を呑み、蘭がほうと息を吐いた。
「
ひじりお姉ちゃんって…黒羽君のこと、好きなんだねぇ」
「もちろん」
「いいなー、わたしにもそんな人ができたら…!」
「園子にならできるよ。何があっても護ってくれるような、騎士みたいな人が」
ひじりの言葉に園子は頬をさらに赤らめ、「
ひじりお姉様がいればわたしはそれで…」と言うが、自分に園子はもったいない。
園子は今時の女の子でイケメンに目がないが、その心根は歪むことなく真っ直ぐだ。そんな彼女の良さを分かってくれるような人が、いずれきっと現れる。その時までは、自分を慕ってくれる彼女に変な虫がつかないよう見張っているのも悪くはない。
「ところで、ひとの色恋沙汰で騒ぐ前に自分はどうなの、蘭?」
「えっ!?い、いやわたしは別にそんなんじゃ…!」
「そーやってぐずぐずしてたら、工藤君どっかよその女に乗り換えちゃうわよ?」
「新一はあれでへたれだから蘭が一発押し倒せばそれで万事OK」
「園子!
ひじりお姉ちゃん!」
先程とは違った意味で頬を赤く染めた蘭に怒鳴られるが、全く怖くない。
ちらりとコナンを見れば「悪かったなへたれで」と言わんばかりで、早く素直になっていればよかったものを、と
ひじりは内心で呟いた。
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