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金髪の男の持ちキャラがシーサー。黒髪の男の持ちキャラはルータス。
凄腕と称される2人だが、モニターに映るのはシーサーが一方的にルータスを叩きのめす映像だった。
「あれ…あの人、あんなに弱かったっけ?」
「それにしたって一方的すぎるけど」
ひじりは快斗と目を合わせて軽く首を傾げた。
□ ゲームセンター 2 □
結局、バトルはシーサーがとどめを刺す手前までいったものの、そのまま何もせず制限時間を迎えてドローとなった。その結果にギャラリーがざわつく。
ひじりは金髪の男に目をやり、勝ったというのに微動だにしない様子を見て鋭く目を細めた。ギャラリーも何か様子が変だと気づき、輪の中から飛び出たコナンが金髪の男に駆け寄ると
ひじりを呼ぶ。
「
ひじり姉ちゃん、ちょっと来て!」
呼ばれ無言で近づいて男の様子を窺う。弛緩した体、見開かれた目、半開きの口。首に手を当てても脈動は感じられず、救急車よりも警察を呼ぶべきだと判断して携帯電話で警察を呼んだ
ひじりは、黒髪の男を一瞥すると店員に店内のゲームを止めさせ絶対に客を外に出さないよう頼んだ。
警察はすぐに来た。目暮が野次馬を入れないよう警官に指示を出して状況を訊き、蘭達が正直に答える。
死んだ金髪の男の名前は
尾藤 賢吾、対戦相手の黒髪の男は
志水 高保というらしい。
まだトリックは解けていないが、尾藤を殺したのは間違いなく志水だ。今日に限って殺気立っていたはずの雰囲気が凪いでいたのは、殺すと決め実行するつもりだったからだろう。
状況から見て、尾藤は対戦中に殺された。おそらく志水へとどめを刺す直前。
だが、どうやって。尾藤がプレイ中何も食べたり飲んだりしていないことはギャラリーが証言できる。尾藤の周りをうろついていた不審人物もいない。まさかゲームの振動ごときで死にはしない。
─── となると、残された殺害方法は。
「毒じゃないの?」
やはりコナンが口出ししてきた。
コナンは尾藤の様子が息を詰まらせて死んだようだが喉を絞められた痕がないため、毒殺ではないかと言うが目暮が苦く笑って否定する。
尾藤はプレイ中何も口にしていないし、あらかじめ毒を飲まされていたのなら体調に出ているはずだ。しかしその様子はなかったと蘭と園子が証言し、コナンが注射器を使ったらさと言えば尾藤は怒るだろうと目暮がやはり否定した。
コナンが快斗に近づいてべしっと足を叩く。お前が言え、とでも言うのだろう。快斗はひとつため息をつくと口を開いた。
「いや、目暮警部ひとつ忘れてますよ。ここはゲームセンター。いつもは様々な音がしてうるさいくらいですし、尾藤さんはゲームの機械に四肢を固定されていた。さらにゲーム画面が見やすいよう店内は薄暗い…多少のことは掻き消されてしまうはずだ」
「
く、工藤君!? ……じゃなかった、黒羽君か」
目暮が快斗の言い分にそれもそうだと頷き、ギャラリーの殆どが尾藤ではなくモニターに釘付けになっていのだとしたら、毒殺の可能性もありえると判断してとにかく死体を司法解剖に回し死因を突き止めるよう指示を出す。
死因を突き止めるまでに被疑者の割り出しにかかるが、50人近くいる客の中から探し出すのはホネだ。だがコナンは尾藤に近づいた人を知っていると言い、店員の出島、志水、そしてコナン達を入れた6人の計8人を名指しした。
「でも、見てたのはそのボーイだけじゃありまセーン!彼もその1人…」
「ああ…あの防犯カメラ」
コナンの証言よりも正確な、口のない目玉だけの存在。
ジョディの言葉に
ひじりが振り返って見上げると、映像は録画されているということで指名された8人で観に行くことになった。
カシュ カシュ
「……?」
歩いていると小さな金属がこすれるような音が耳朶を叩いて、
ひじりは音源を探して床に視線を落とした。快斗も聞こえるようで「何の音だ?」と首を傾げている。
それが何かを見つける前に事務室に着き、みんなで画面を覗きこむと同時に音が消えた。何だったのだろうと思うが答えは出ないので、とりあえず画面に目をやった。音声はないためそれぞれ注釈を入れながら説明していく。
尾藤が対戦中にジョディと2人きりとなったが、ジョディはレーシングゲームでハイスコアを叩き出したためシロだ。よそ見して手を離してハイスコアを出せるほどあのゲームは簡単ではない。ジョディのゲーマーぶりが幸いした。
「危なかったですねー!
ひじり、快斗君!」
「ハハハ…」
ジョディはにこにこと笑っているが、現役FBI捜査官が容疑者などまったく笑えない冗談だ。
快斗が乾いた笑いを浮かべ、
ひじりは無表情に画面を見ていると、今度は尾藤の陰から眼鏡をかけた小太りの男が出てきた。
すぐさま目暮がこの男を連れて来るよう言って高木が出て行き、連れられて来た男───
江守は100円玉を拾っていたのだと言う。
江守は自分に尾藤を殺す理由はないと言うがそれを志水が否定し、江守がそれなら志水の方が余程強い動機があると言い返した。2人の会話で店員の出島に飛び火したのを聞き流していると、警官がやって来て尾藤の体から毒物が検出されたと伝えた。
毒物名はテトロドトキシン。フグ毒。通称TTX。致死量は0.5~1mg。青酸カリの200分の1で死に至る劇薬だ。経口であったならば中毒症状の進行が遅く助かる場合が多いが、直接血液内に注入されると短時間で神経が麻痺し呼吸不全を起こして死に至る。つまり犯人は直接尾藤の体内に毒を流し込んだと言える。
「けど、現場に注射器や針なんて落ちてませんでしたよね?」
「捨てるにしても店内であればすぐに見つかる…でも、まだ犯人が持ってるとは思えない」
「……オレ、お前らに探偵役任せていいか?」
「「嫌」」
だって探偵じゃないし。
コナンが頭をひねらずとも真実に辿り着きそうな
ひじりと快斗にきっぱり断られ、コナンがため息をつく。
とりあえずもう一度現場検証を行うために店内へ戻る目暮の後に続いて最後尾を歩くとまた例のカシュカシュという音がして、
ひじりと快斗、そしてコナンが音の元を探れば、前を歩く出島の一瞬覗いた右の靴裏に目を止めた。
「ねぇ!左足の靴紐ほどけかけてるよ」
コナンに言われ、悪いねボウヤと言いながら出島が靴紐を結び直す。
しゃがむと右の靴裏にはりついているものがあらわになり、消え去った凶器が見えた。銀紙からちらりと覗いているのは針だろう。3人は顔を見合わせる。
「犯人はあの人で間違いねぇ…でも引っ掛かる。何であの人、刑事の前でガムなんか」
「そんなの、本人に訊けば分かんだろ?探偵お得意の…推理ショーでよ」
口の端を吊り上げて笑う快斗に、コナンも不敵な笑みを返す。
「─── で、物は相談なんだけどよ」
「
こ・と・わ・る。オレは探偵じゃなくてマジシャンだっての。他の誰かに頼め」
「じゃあ
ひじり」
「嫌」
快斗以上にどきっぱりと断り、ひらひらと手を振って
ひじりは快斗と共に店内へと戻った。
減るもんじゃねーだろ、と後ろをついて歩きながらコナンがぼやくが、探偵役などして表に出れば寿命が減るのでお断りだ。
現場検証となったが、結局凶器は出て来ず、志水は尾藤と対戦していたため不可能だと言い、出島も尾藤に近づいたときはコインを回収したときだけで、そのときにはまだ生きていたことが判明している。そうなれば犯行が可能となるのはジョディと江守。
しかし園子がレーシングゲームの座席に座って尾藤が座っていた方に手を伸ばすが届かず不可能だと証明して、江守も尾藤に近づいたのは左側、尾藤が刺されたのは右側で自分だって不可能だと言い張って譲らない。
高木がそれぞれを宥めて念のため身体検査を受けて捜査に協力するよう頼むのと、コナンが園子へ麻酔針を撃ち込んだのは同時だった。ハンドルに頭をぶつけないよう
ひじりが園子の頭を支える。
「ど、どうしたの園子?」
「何か力抜けちゃったって」
「ありがとう
ひじりお姉様。ホント力抜けちゃうわよ…もう目暮警部ガッカリーって」
ひじりが園子の体勢を整えるとコナンが園子の声で礼を言われ、その場から離れて推理ショーを見守る。
犯人は志水と断定され、当然志水は否定して尾藤に一方的にボコられていたのだと供述するが、ならば実際にやってみようということになって蘭と高木が対戦することになった。
モニターの中で女キャラと男キャラが対峙する。
ゲームが始まり、男キャラが女キャラを一方的に攻撃して女キャラの負けで終わった。つまり蘭の負け───と周囲に思われていたが、実は違う。逆だ、実際男キャラを動かしていたのは蘭で、女キャラだったのは目隠しをした高木。
このように、つまり志水は先入観を利用したのだ。
たとえ尾藤が死んでいたとしても、体は固定されているし攻撃を受ければ反動で揺れる。このゲームには大振りな動きは必要がないため、注意深く見なければ気づかれない。
そして園子は事件の流れを説明し、志水を追い詰めていく。
見つからなかった凶器は出島の靴の裏に貼りついているし、ガムも煙草も自分のものとは違うと言うが犯行に使ったガムは店内で調達したもの。
凶器からは指紋は出ないだろうが、尾藤のキャラ選択をするために投入したコインにはべったりと志水の指紋がついているはずだ。本来なら他のコインと紛れて判らなくなってもおかしくないが、出島がコインを回収したのは尾藤がプレイする前。
本当にコインに志水の指紋がついていたのなら─── 納得のいく理由を、志水は用意しなければならない。
「ついてるよ…俺の指紋」
しかし志水はその言葉で犯行を認め、逮捕されることとなった。
こうして事件は解決し、園子を起こした
ひじりは蘭達と共に外に出て、別れ道に差し掛かると快斗諸共ジョディに腕を引かれた。
「私はこの2人とお茶して帰りマース!毛利さん鈴木さん、また明日スクールで会いましょう!」
え、と蘭と園子が目を瞬くが、そういえばそういう約束でしたねと
ひじりが臨機応変に対応すると納得したように頷き、コナンを伴って帰路につく。
ジョディはコナンの小さな背を見て「Bye bye cool guy」と小さく声をかけ、
ひじりと快斗を引っ張り背を向けた。
「あの子、なかなかのキレ者ですねー?」
「有名な毛利探偵のところで世話になっているせいかもしれませんね」
「で、お話ってのは?」
「もちろん─── 彼女についてよ」
快斗の問いに朗らかな笑みから一転し、その瞳に不穏な光を宿したジョディが指す“彼女”とは、新出になりすましたベルモットのことだ。
今日も堂々と校医として学校に現れたらしく、笑っちゃうでしょ?と笑みを見せる。
ひじりと快斗は笑わなかったが、お互い鋭い光を宿した目を合わせた。
ゲームセンター編 end.
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