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翌日、コナンは目を覚ました。
その見舞いに
ひじりは快斗と行き、説教はせずただ無事だったことを無言で抱きしめて喜び、コナンの口から幼児化するきっかけとなった話を改めて本人から聞いて、快斗は内心ひどく呆れていたようだったがポーカーフェイスを崩さず「大変だったな」と相槌を打った。
「そうだ、庇ってくれてありがとよ」
「オメーが撃たれた方が面倒だったから礼は別にいいけど…。あー…じゃあ黒羽、オレのふりして蘭の前に現れてくんねーか?」
正体がバレそうってかバレてんだよ、と諦めたようにため息をつくコナンに、快斗はいいけどよと頷いたが苦く笑った。
「そんなことしても、蘭ちゃんはオレが工藤のふりしてるってすぐ気づくと思うぜ、きっと」
□ 命がけの復活 7 □
蘭は新一の幼馴染だ。少しでもぼろを出せばすぐにバレる。特にコナン=新一を疑っている今、余計なことはしない方がいい。
だよな、とコナンが諦めのため息をついて頷いたことで快斗が新一のふりをする計画はすぐになくなった。
見舞いを早々に切り上げ病院の外に出た
ひじりと快斗は、昨夜駐車場に停めたままにしていたバイクに跨り、博士の家へ向かいながら言葉を交わす。
「工藤の奴、本当何でよりによってあの組織なんかと…」
「前も言ったけど、私達のことはバレるまで口外禁止。赤井さん達にも新一のことは秘密。FBI側から新一へコンタクト取られたら動きにくい」
「もちろんです」
そして、
ひじりが組織と関わり合いがあるとコナンにバレても、快斗の存在だけは決してバラしてはいけない。手札を全てコナンに晒す必要は、ない。
阿笠邸に着き、車庫にバイクを停めて2人は駅へと向かった。今日は人と会う約束があるのだ。
待ち合わせ場所の駅前で手を繋いだまま待っていると、ふいにぽんと2人の肩を誰かが叩いた。
「ハーイ!相変わらず仲がいいですネー」
「それほどでも」
振り返ればにこにこと笑顔でなまった日本語を話す眼鏡をかけた女がいた。ジョディだ。
ジョディが赤井と共に日本へ来てから、2人はある日偶然ジョディに街で出会い道に迷っていた彼女に親切をし、意気投合して度々街を案内しながら遊ぶ間柄になった、という設定で会っていた。
「今日はどこに連れてってくれますかー?」
「ジョディさん、日本のゲーム好きだって言ってましたから、ゲームセンターにでも行きませんか?」
「
Wow!!Really!? やった!ずっと楽しみにしてたのよ!」
「ジョディさん素が出てます」
「ハハハ…まぁ今までは遊ぶ暇なんてなかったんでしょうし」
素が出て流暢な日本語を喋るジョディに冷静に
ひじりが突っ込み、快斗が苦笑する。
Harry up!早く行きましょう!と
ひじりと快斗は手を引かれて歩き出した。
「そういえば、先週から帝丹高校の英語教師に赴任しているんですよね?」
「Yes!……今のところ、彼女はまだ行動を移していないわ」
快斗の問いに大きく頷き、僅かに声を潜めて報告される。
ジョディの言う“彼女”とは、最近新出医院に通い詰めている女優クリス・ヴィンヤード─── ベルモットだ。
呑口がピスコに殺されたパーティの後、ベルモットは女優活動を一時休業し、日本に留まり続けている。医院に通い詰めている理由が病気であるから、のはずがない。おそらく、新出医院の誰か─── 帝丹高校校医である新出智明に成り代わるつもりなのだろう。
そのため新出周辺には気づかれないようFBIの護衛と見張りが立っているが、後々のことも考えて英語教師として帝丹高校にジョディは潜り込んでいる。
なぜベルモットが日本に留まっているのか、ジェイムズを始めとしたFBIは
ひじりを狙ったものではないかと考えているが、赤井と
ひじり、快斗は確証がないため口にしないものの、違うだろうと別の見解を抱いている。
確かに、
ひじりはジンの“人形”であったが故に組織に消される危険があるが、奪い、殺しに来るのは他の誰でもないジンだ。仲間のベルモットとはいえ、ジンがその役を他の誰かに譲るとは思えない。
だがベルモットが独断で
ひじりを狙いに来た可能性もあるため、一応身辺の警戒は怠らずにいる。
そしてもうひとつ、ベルモットの
ひじり以外の目的とは。
─── ベルモットは、哀を捜している可能性がある。
それが3人が出した見解だ。
あの日のパーティで哀は元の姿をジン達の前に晒してしまったため、シェリーこと宮野志保が生きていることを知られた。
裏切り者を抹殺するためか、はっきりとした理由は分からないが、もし例の薬を作った哀を狙っているのだとしたら。
しかしその確証はない。へたに護衛をつけて目を向けられても困るので、今は様子見状態だ。
「あ!2人共、学校の近くは危ないデース!クビは困りますからネー!」
「
通い詰める気ですか。まぁ帝丹からは結構離れた所にあるんで、生徒も殆ど立ち寄らないと思いますよ?」
「Ohー!快斗君はとってもとっても気が利きますねー!アリガトゴザイマース!!」
素は出さないまでもにこにこと満面の笑みを浮かべて足取り軽く歩くジョディを2人が連れて来たのは、「GAME ON GAME」と看板が色取り取りに光るゲームセンターだった。
プリクラ、アクションゲームにレーシングゲーム、メダルゲームにクレーンゲームなどたくさんのものが賑やかな音を立てて稼働している。
ジョディは目をきらきらと輝かせて辺りを見回し、奥のゲームへ進もうとして、手前に並ぶプリクラ機を目にして足を止めた。
「
ひじり、快斗君!プリクラ撮りませんかー?」
「いいですよ」
「Yeah!後でシュウに見せびらかしてやりマース!絶対悔しがるネー!」
ひじりに大きく頷いてにやっと意地悪く笑むジョディに、
ひじりと快斗は頭の中で赤井が悔しがる様子を想像しようとして、全く想像がつかなかった。
2人揃って首を傾げるのを見て、ジョディがふふっと笑みをこぼし2人の背中をぐいぐい押す。
「いいから撮りましょー!Let's play!」
「わ、分かりましたから押さないでください」
「そうだ
ひじり、快斗君と撮ったことありますかー?」
「いえ、ありません」
「Oh!ならハジメテは快斗君に譲らないといけませんネー!ひとの恋路を邪魔すると馬に蹴られるようですのでー!
Get kicked to death by a horse、でしたかー?」
「
ハジメっ…!ジョ、ジョディさん分かって言ってるだろ!」
「何のことだかー?」
終わったら呼んでくだサーイ!と言い残し爽やかに奥のゲーム機へ歩いて行ったジョディを見送り、
ひじりは顔を赤くした快斗と目を合わせると手を引いて中へ入った。
しかしプリクラと言えば覚えている限りでも5年以上前で、基本的な操作は覚えているものの勝手が違い、コインを入れたはいいがそこから手を止めて首を傾げた。
「快斗、分かる?」
「はい…。えーと、じゃあ今回はオレが適当に選びますね」
「うん」
ほんのり顔を赤くしたまま付属のペンを手に取って淀みなく動かす快斗の手元を覗きこみ操作方法を頭に叩き込んでいた
ひじりは、シンプルな背景2つ、星の背景ひとつ、ネタ用にちょんまげフレーム、そして少し悩んでハートマークを選んだのを見て、顔を上げて見れば快斗がそっぽを向いてまた顔を赤くしていた。
そのまま進み、『ポーズを取ってね』と子供のような声が楽しげに響いて画面から離れる。
快斗と並び無表情に近しい表情のまま何度か撮る。最後にハートマークフレームになった。
「快斗、腕」
「えっ!」
『はい、チーズ!』
「チーズ」
カシャ
撮り終えて出来を見てみると、最後のハートマークに収まる、
ひじりと腕を組んだ快斗の顔がカメラではなく
ひじりを向いて真っ赤なのを確かめて小さく笑い、撮り直す選択を与えず先へ進んだ。
快斗は赤い顔でぱくぱくと口を開閉させていたが、落書きタイムとなったので慌ててペンを手に取る。
「
ひじりさん不意打ちは卑怯です…」
「快斗のカッコいい顔も好きだけど可愛い顔も好きだから残したくて、つい」
「真顔ずるい…!」
無表情のくせにきりっとした顔で言い切られ、快斗が赤い顔を片手で覆う。
快斗が悶えている間に
ひじりはさくさくと落書きを始め、日付と名前、スタンプを適当に押していく。初プリクラ☆と七色のフォントで書いてやった。
やがて落ち着いた快斗も書き始め、お互いの顔に落書きを残したりと2人は楽しみ、プリントアウトしたそれを分け合ってシューティングゲームでハイスコアを叩き出していたジョディを呼びに行き、そのあとは3人でわいわいと盛り上がりながら撮って楽しんだ。
「ハート!Pretty!3人で仲良く入りましょー!」
「誰が真ん中?」
「オ、オレは遠慮します」
「もちろん可愛い2人を私が後ろから抱きしめる形デース!!」
「Hey シュウ!
ひじりと快斗君と3人でプリクラ撮ったの!どう、羨ましいでしょう?」
「
…………。……お前は何しに日本に来たんだ」
「シュウにプリクラは難易度が高すぎるから今度写真を撮ってあげるわね。あとこれ欲しい?」
「ああ」
(素直だわ)
命がけの復活編 end.
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